噛み合わせ
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顔の歪み
お顔の下半分が左右非対称になっていく原因

噛み合わせとの関係から見えてくる、顔のゆがみ根本的な原因

院長・関端 徹 / せきはた とおる

鏡をご覧になったとき、「唇の端の上下の位置が右と左では違う」「顎の先が鼻のラインと比べて左右どちらかに移動している」、「前歯かみ合っていない」といった点に気づかれたことはありませんか?また、下あごが年々後ろの方に移動して、顎が小さくなったように感じている方もいるでしょう。これはもしかしたら、顔が歪んできてしまった?のかも。

でも、これらの症状にはすべて共通点があります。それは“下顎が変化した”ということ。実は顔が歪んでいるのではなく正確には下顎が左右、前後に移動したために生じる変化なのです。

まず大丈夫かどうかチェックアップ

スタンド付きのお鏡を用意してください。そして顔の正面全体が見れる位置においてください。そして次のように点検していきましょう。

  1. まず、両瞳孔を結んだ線を想定してください。
  2. 次に左右の口角を結んだ線を想定してください。
  3. この上下二つの線が平行であれば、とりあえず問題はありません。
    ※とりあえずといったのは理由があるからです。アドバンスとしてお顔を横から見た時のチェック方法は最後にお話ししましょう。

もし平行ではない場合、顔が歪んでいる、正確に言えば「上顎に対して下顎がずれている」ということになります。つまり正面から見たとき、右顎の長さと左顎の長さが違って見えるということです。

なぜ左右の長さが違ってきてしまうのか?

考えられることは二つあります。一つは下顎が移動した場合、もう一つは下顎の丈が短くなってしまったときです。

1.下顎が移動した場合

原則、上顎と下顎は結合していません。顎関節というジョイント部(蝶番)で連結しているのです。そもそも、“顎関節”という言葉、耳慣れていますか?おそらく馴染みのない言葉ですね。でもこの顎関節が顔のゆがみの重大なカギになるのです。

正常な顎関節の状態。口を開けると関節頭が前下方に回転しながら移動する。関節円盤といわれる組織が関節頭にかぶさるように付着している。

顎関節は他の関節のようにその場での回転運動ではありません。もし顎関節がその場で回転運動をしてしまうと、口を大きく開けた時、下あごが後方に行ってしまい、下あごについている舌も後ろに後退してしまうため、気道を狭くしてしまいます。このようなことを回避するために、関節頭(顆頭)は前下方に回転しながら移動するという複雑な動きをしているのです。

そしてこの顎関節の中に入っている関節円板というものは、体の中で“ここだけ”にしかありません。非常に特殊な組織で、円板のある位置や形状が下あごの位置に影響を与える大きな原因となっています。

関節頭の上に丁度スキー帽をかぶるような状態で靭帯という組織でしっかりと関節頭に括り付けられています。もともと靭帯が伸びやすい人、大小さまざまな外傷を受けた場合など、関節頭から前方の方に帽子が脱げるように外れていくことが多いと最近の研究で分かってきました。この円板のずれが生じることによって、円板に覆われていた関節頭(顆頭)は上下前後に振り回されてしまうのです。

下顎が移動した場合の模式図

関節頭(顆頭)の位置がずれるということは、お顔を正面から見ると左右同時なら気が付かないのですが(この場合お顔を横から見ると顎が後ろに後退していることに気が付くかもしれません)、片側だけだと、右側と左側の位置が違うので、お顔が歪んで見えます。円板の厚み分だけ高さが減少して下あごの高さが縮むため下あごの高さが短くなり、お顔が歪んで見えるのです。

2.下顎の丈が短くなってしまった場合

下顎の丈が短くなってしまった場合の模式図

これは関節頭(顆頭)の骨の病気になった場合です。
どうして骨の病気が起こるのでしょうか?

最大の原因は関節円板が前方に変位して関節頭から完全に外れ、尚且つそこに浸出液が発生して関節円板が下方に押された場合、丁度そこに関節頭の頭頂部の骨に行く血管があるので、関節円板によってこの血管が圧迫閉鎖されてしまうために起こる関節頭頭頂部の駆血壊死(骨の細胞が死んでしまうこと)です。骨が壊死してしまうとその部分が大きく崩れ落ちるためその分だけ下顎肢の長さが短くなってしまいますので、顔の変形量はかなりなものとなります。

そのほかに炎症が骨の表面で起きてそれが骨の内部まで浸透していく離断性骨軟骨炎などがあります。駆血壊死よりは範囲が狭いので変形量は少ないのですが、関節円板のずれによる変形よりは顔が変形してしまいます。

でも1.2とも頻度は少ないので安心してください。

顔の歪みの治療法は?

治療法としては下記の2つがあります。

  1. 顎関節の状態を元に近い状態に戻すための外科療法
    関節円板の除去と脂肪組織の移植、関節頭の修復と骨移植が代表的ですが、日本ではこの治療は行われていません。
  2. 現状を維持していくための保存療法=咬合調整(かみ合わせの調整)
    咬合を安定させ、顎関節をさらに悪化させないためにその状態に落ち着かせる(順応させる)治療です。必要があれば、咬合を安定させる際、歯に補綴治療(かぶせ物)を行います。痛みがあれば痛みをとるためのスプリント療法を行う場合もあります。

保険はききますか?

保険はききません。顎関節の診断はMRI撮影から始まります。MRI撮影自体は歯科保険でできますが、顎関節と咬合の診断が保険の範疇に入っていません。つまり歯科保険では顎関節と咬合の治療法の設定はしていないということです。

まとめ

お顔の下顎がずれ、左右非対称になってしまう原因は、顎関節が大きく関与しているということです。しかし、顎関節の中が変化しても症状はほとんど出ず、痛みもほとんどありません。たとえ痛みが出たとしても、たいていの場合は時間が経過すれば消えていきます。そのため、顎関節が原因だとは気付かずに、何となくお顔のゆがみが気になる…という状況になってしまうのです。

しかし、よく意識してみますと、“関節雑音(カクとかジャリジャリといった音)”、“開閉時のぎこちなさ”、“歯がうまく噛めていない→一か所でしか当たっていない、早食いになっている”といった症状を感じることはできるかもしれません。

歯科医院に「一生懸命通って虫歯や歯周病の治療をしているのだけれども年々歯がなくなっていく」、「何とか自分の歯をできるだけ多く残して快適に使っていきたい」と思われている方は、一度“顎関節と咬合のことに精通している歯科医”にご相談されることをお奨めします。

ちょっと解説【顎関節】

顎関節とは?

顎関節は、数ある中でもほとんど知られていない関節です。それはまず膝や腰、ひじの関節のようにあまり痛みが出ないところなので、症状が出なければ関心を持たれません。また症状が出たとしても顎関節そのものの痛みより、周りの筋肉の痛みの方が出やすいので、顎関節の在りかがわかりにくいということも知られていない一因でもあります。

顎関節は一体何処にあるのでしょうか?

耳の穴の1cmくらい前方に人差し指を置いて口を開けたり閉じたりしてみてください。コクコクと動くところを感じられるはずです。そこが顎関節といわれるところ在りかで、下あごの上の方に顆頭という凸型の骨が頭蓋骨の下顎窩という凹型の骨の中にはまっていて、その両者の間には関節円板とその一連の前方には顆頭や円板を前方に引っ張る外側翼突筋という筋肉や後方には前方に移動したときその空間を膨れることによって埋める円板後部組織というものが介在して構成されています。

痛みがあまり出ないのでその存在が知られていないのですが、なぜ顎関節は痛みが出にくいのでしょか?

それは関節頭(顆頭)の表面に張り付いている軟骨に秘密があります。顎関節の軟骨は肘や膝、股関節にある硝子軟骨といわれている軟骨とは違い、繊維軟骨という軟骨で構成されています。繊維軟骨は結合組織と軟骨の中間型で軟骨基質の大部分には密なコラーゲンが束となって多く含まれ、痛みを感じるセンサーも硝子軟骨よりも少ないので、痛みをあまり感じないようにできています。その最大の理由は、この関節がちょくちょく故障しやすいと食べられなくなる、つまり栄養摂取に障害が出てきて生き死にの問題になってしまうからではないでしょうか。

痛みがあまり出ないので、一般的には顎関節のトラブルの深刻さは十分に伝えられませんので、お顔が歪を直そうと思ったら、顎切り手術を薦められるのが落ちです。クワバラクワバラ。

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