歯周病の原因は噛み合わせの悪さ?
気になるその関係と対策法
歯磨きしているのに、歯周病が悪化している。歯がグラついてきた。定期検診しているのに、抜くことになってしまった……。20年前(2017年現在)私が衛生士になり、予防や歯周病を中心に仕事をしていたとき、担当している患者さんにこんなことが多々起こりました。
それから歯を失わないためにはどうしたらよいのかを考え続け、その答えをやっと知ることができたのです。それは「細菌のコントロール」と「顎関節に起点をおいた咬合の管理」。この2つの管理をすることでした。※咬合とは噛み合わせのこと。
噛み合わせの治療がカギ
20年前、私は患者さんのためになるのは、徹底したプラークコントロールと歯周病治療、予防であると思い込んでいました。仕事はブラッシング指導と歯石除去、定期検診を担当。確かに歯肉の状態は改善されるケースが多く、患者さんも「お口の中がスッキリした!」と喜んでくださり、やりがいのある日々ではありました。
しかし中には1本の奥歯だけがグラついてきたり、歯周ポケットの改善がされない歯があったりします。こんなとき、定期検診ではただ「様子を見ましょう」で終わるしかありませんでした。「このままではこの歯を失ってしまう」と納得いかず、原因を追究しはじめたのです。わかったのは、咬合が関与しているということ。悪化していく歯は他の歯より強くあたっている。また歯ぎしりのように横に動かす時には特に強くあたっている共通点を目にしていたからです。
ところが、一般的な歯科では咬合の治療に関心をもっていません。そこで私は、咬合を診ることのできる自由診療の医院に転職することを決めました。
セキハタ歯科医院に勤務して19年。一人一人の咬合治療から定期検診まで診てきて、やはり歯を失う原因には咬合が関与しているということが目の前にしてわかりました。徹底したプラークコントロール(詳しくは予防プログラムページへ)、歯周病治療、予防、そして咬合の管理をすることで歯を失ってしまう危険性が明らかに下がります。
しかし、長い年月の経過と共に、不思議な現象を目にすることがありました。歯と歯の接触点が離れたり、一気に全体が崩れたりして、咬合が変化するのです。咬合を専門に行っているセキハタ歯科医院でも長い間原因がわからないままでした。
しかし2012年に院長が受けたM.A.Piper先生(詳しくは顎関節の診断ページへ)のレクチャーで、Piper先生が「関節高径の変化は咬合と顔面骨格に影響を及ぼす。顎関節の構造変化と咬合変化は直接的に関連している」と定義していることを知り、この謎が氷解していったのでした。咬合治療、管理は顎関節から診ないと意味がないことが明確になったのです。
40歳以上の8割が罹患。歯周病の2つのメカニズム
メカニズム1:プラーク型
口腔常在菌は500種類ほどあると言われています。細菌の特徴は子孫繁栄!とにかく増やすことです。そこでブラッシングが不十分であると唾液成分の糖タンパクが歯の表面に薄い皮膜(バイオフィルム)を作ります。これが細菌達の家の土地だとイメージしてください。その地で繁殖をしていくための家づくりが始まるのです。
細菌にとって口腔内はエサには不自由がなく、湿度、温度も快適な環境です。細菌の家はバイオフィルムと言われる幕のようなものでできていて、お口をゆすいだぐらいでは壊されません。
また悪玉菌に分類される歯周病菌は酸素を嫌う嫌気性菌であるので酸素が希薄な歯肉溝近くに家を作りその中で毒素を産出していきます。毒素が歯肉溝の中に充満されていくと歯肉に炎症反応が始まり、歯肉に腫れや、充血反応が起こり、出血しやすくなります。
この反応が歯肉溝を増大させ、細菌の住宅地を広げて家の建設が進み細菌の密度が急増し、垂れ流される毒素量も多くなって炎症がさらに強くなっていきます。このような一連の反応の結果、破骨細胞が活発になって歯を支えている歯槽骨もジワーッと消失してしまうのです。歯を支えている歯槽骨が無くなっていくと歯はグラグラと動揺しだし、食べ物が食べにくくなり、やがてそのまま放置されれば自然に抜けていってしまう運命をたどります。
歯周病菌の感染は後天的なものなので、人により多い人(罹患しやすい)、少ない人(罹患しにくい)がいますが、いずれにしても歯周病菌の増殖を毎日のプラークコントロールで徹底的に管理していれば、歯周病の進行を防ぐことがほぼ可能になります。当院のホームページ予防プログラムをご参考下さい。
ここまでは歯科医療関係者であれば大抵の人が理解していることです。しかし続きがあります。歯周病の悪化には協力者がいたのです。
メカニズム2:咬合性外傷ー歯周病の協力者「ピエゾ電位」
ピエゾ電位とは火打ち石を叩くと火花が出るのと同じ原理で、体の組織が機械的な刺激に反応しておきる電位のこと。歯のような結晶構造物(骨はカルシウムアパタイト)に一方から力が加わると、結晶内ではピエゾ電位が発生し、いくつもの過程をえて最終的には破骨細胞が出現し、骨の吸収、破壊へとつながります。
これが咬合性外傷(噛み合わせが歯に障害を与えること)のメカニズム。歯科矯正治療で歯を動かす原理と同じでもあります。
咬合性外傷による骨の吸収過程では炎症反応はともないませんので、出血、排膿はみられないのが特徴です。また初期の段階で適切な治療をすれば、咬合性外傷は原因(過度の力)が除去され、いったん吸収された骨が修復され動揺も治まってくることがあります。しかし、この状態が長期間続いて、その周囲に歯周病菌がいると、骨の吸収された隙間に歯周病菌が侵入して繁殖をはじめ、細菌による炎症反応が怒り、やがてさらなる骨の吸収が進んでいってしまうのです。
そして、この咬合性外傷を起こさせる原因の多くは顎関節の内部の偏位による噛み合わせの変化であることがわかってきています。
まとめ
私の衛生士人生25年は、「噛み合わせと歯周病は、歯を失う原因に関係しているのか」の追求でした。そして近年ようやく、セキハタ歯科医院での臨床成果から「関係していました……!」という結論をえたのです。
もう一度整理してみましょう。歯周疾患はプラーク型歯周疾患と咬合性外傷型歯周疾患の2種類があります。後者の咬合性外傷歯周疾患の方が2度に渡る骨の吸収が起こるため、ダメージが大きくなり、急速に歯を喪失させていきます。
これらの疾患を防ぐには、
- 歯周病菌の繁殖をコントロールすること
- 咬合の管理をすることが必要です。
特に②は、顎関節の内部の変化から咬合の変化が察知できれば、咬合の調整を行い異常な外力を取り除く咬合治療を実施することができます。
歯があって毎日使っている以上、細菌だけが悪さをするのではなく、咬合力(噛み合わせの力)による影響もかなりのウエイトを占めるのではないかと思われます。
①、②を同時に実行すれば、「時間の経過と共に歯を失う」という日本人の陥りやすい罠から逃れることが可能となります。そして生涯ご自分の歯で快適な生活を送ることも夢ではありません。