エピソード
12

かかりつけ歯科医は
あなたの人生を左右する?

患者さんのエピソードからわかる「かかりつけ歯科医」の重要性

歯科衛生士・田中 洋子 / たなか ようこ

生涯にわたって健康な歯を維持するためには、「かかりつけ歯科医」と出会うことが大切です。当院の患者さんのエピソードを通して、どのような歯科医がかかりつけ歯科医として最適か、考えてみましょう。

理想的なかかりつけ歯科医

まず冒頭に、埼玉県歯科医師会ポスターに載っていた、“かかりつけ歯科医”からのメッセージをご紹介します。

私達は、皆さんの生活習慣予防をサポートします。
歯を失うことなくよく噛める
歯を失ったら入れ歯で噛める
何でもよく噛めて、
偏ることなく栄養を摂ることができる
それが生活習慣予防の基本です

こんなかかりつけ歯科医と出会えたらいいですよね……。
今、あなたはおいくつですか?
これから生涯にわたって”何でもよく噛める状態をキープしてくれる“と信じられる「かかりつけ歯科医」とこれまで本当に出会ってましたか?

体験談①:30年同じ歯医者に通った結果……

「かかりつけ歯科医」といえば、定期的に通い続けて検診をうけて、悪いところが見つかれば治療してもらい、一生安心して任せられる歯医者というイメージが浮かぶと思います。これからご紹介するSさんも、同じようなイメージも持って、とある歯医者に通っていました。悪いところが見つかるたびに治療を受け続けて30年。彼女の上の歯は残り1本になってしまっていました。

61歳 女性(2018年現在):Sさん

30年間近所の歯科医院に通っていた女性(現在61歳)Sさん。30年前彼女が30代であったころ、自分の歯はすべてあったとおっしゃっていました。60歳になるまでの30年間は、通いやすいという理由で近所の歯科医院で定期検診を受けてきたのです。定期検診でむし歯が見つかれば、その都度治療を受けてきました。

歯周病によって悪化したと言われればその歯を抜き、歯がなくなったところにはブリッジをかけました。しかし、ブリッジをかけられた歯は時間の経過と伴にぐらついてしまって結局抜歯。ブリッジがかけられなくなったので仕方なく取り外しをする部分的な入れ歯に。
ひと安心と思った矢先、今度は入れ歯のバネがかかる歯がぐらついてしまい、その歯も抜歯。再び新しい入れ歯を作り直す、ということを繰り返してこられました。

そして61歳になった今、上はとうとう残り1歯に、下は少し揺れている前歯6本しか残らず、奥歯は部分入れ歯の状態です。その間、何回入れ歯を自費で作り直しをしたことでしょう。

しかも自費で作った入れ歯にもかかわらず、上の入れ歯は、口を動かせばずれてくるし、下の入れ歯はがたがた動くし、上下の歯は噛もうと思っても、ずるッとズレてしまうのでうまく噛み切れません。

Sさん初診時の口腔内の写真
Sさん初診時の状況。左:入れ歯がずれて隙間があいている。右:上下がうまく噛み合っていない。

そのため、食べられる物は限られており、旅行に行くと食事は必ずバイキングがあるところを選ばざるをえませんでした。外食では当然食べられないものは全てご主人に食べてもらっていました。「バイキングなら自分が食べられる物だけを選んで食べていればいいから。」入れ歯を唇で押さえながら、ポツリぽつりと今までの経緯を話してくれました。

結果的に、30年間ずっと通い続けたのですから、この歯科医院は彼女にとっての「かかりつけ歯科医」であったことになります。

そんなSさんですが、3年前に突然脳梗塞を発症して病院を受診しました。このときに初めて、自分が重度の糖尿病を患っていたことが分かったのです。

この30年間、日本の歯科医療を信じて一生懸命通い続けたのに、その結果は「大きな代償を払わされた」ということ以外の何ものでもありませんでした。

治療後のSさんの口腔内の写真
治療後のSさんの状況。入れ歯はぴったりと隙間なくはまり、上下もきれいに噛み合っている。

その後、当院で半年間、一口腔単位の治療をお受けになり、現在では大きな口を開けて笑っても落ちない入れ歯、バイキング付きでなければという条件を外して自由に選べる旅行や趣味を心から楽しむ生活へと一変したようです。「お新香が食べれるのです!」という言葉を聞いて、私たちはほっと胸をなでおろしました。

体験談②:36年間で失った歯はわずか2本!

通い続けて35年。失った歯は、わずかに2本だけ。定期検診のたびに、歯磨きの指導や磨き残しのチェックを受けている方の体験談をご紹介します。

1982年 初診 56歳 残存歯数24本
2017年 現在 92歳 残存歯数22本

92歳 女性(2018年現在):Hさん

Hさん笑顔の写真
Hさん笑顔の写真

35年間、途切れることなく当院の定期検診に通っていた女性Hさん。先日の定期検診では「ここの黒いところ磨いても取れないのよ……」と30年前に入れた前歯のポーセレンブリッジを指さしていました。そこはポーセレンが剥げて中の金属が見えているところでした。その旨をお伝えすると「こんなに長生きするならもうちょっと前に作り直しておいたほうが良かったわね。」とのお言葉。

92歳になられ、膝の具合が少し悪くなってきたHさんですが、毎朝、自分の足でいつまでも歩けられるようにと、1時間はカートをおしてお散歩をされています。当院までの通院に約1時間かかるのですが、4か月に一度は必ず来院されています。お嬢さんと同じ食事をして、私の仕事は「歯を磨くことだけ」と、就寝前にはかかさず30分から40分かけてプラークコントロールをされています。歯ブラシだけではなく、フロス、歯間ブラシ、ポイントブラシ等の補助用具も使用。定期検診の染色後、「注意されたことを意識して頑張っているのだけど……どうかしら?」とニコニコして鏡を覗いている姿は、毎回微笑ましく感じます。

92歳Hさんの口腔内の写真
92歳になってもきれいに整った歯

現在経過観察しているむし歯はありますが、Hさんには大きな骨隆起がありますので、「入れ歯にならないように」をテーマに管理させていただき、当院を信頼して下さって36年。

快適な口腔環境を保ち92歳となった今でも歯を意識し、歯を大事にして食を楽しんでいるSさんです。

人生を左右する、かかりつけ歯科医の選択

お二人の例から、あなたにとって本当の「かかりつけ歯科医」とはどのような歯科医であれば良いのか考えてみましょう。

見分けるポイントは、診療で1本の歯だけを診る歯科医師なのか、あなた(人)を受け入れて、あなた自身を診てくれる歯科医師なのかです。

どちらを選択するかによって、あなたの人生は大きく左右されるかもしれません。

メールで
お問合せ