噛み合わせ
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前歯が当たらない?
麺類が前歯で噛み切れない2つの理由

噛み合わせと顎関節、正しい治療法について

歯科衛生士・田中 洋子 / たなか ようこ

食事で麺類を食べている時に、「前歯で噛みきれない。どうしよう・・?」とドッキとしたことのある方はいませんか?鏡で前歯を下からよく見たら、
「上の前歯と下の前歯の間に隙間が!」
「奥歯しか噛み合っていない!」
見れば見るほどいろいろなことが発見され、なんだかネガティブな感情が生まれてしまいますよね……。
じつは、これには2つの原因が考えられ、先天的なものと、後天的なものがあります。気づいた時がチャンスです!ご自身の歯を大切にしていくために原因を探っていきましょう。

もともと出っ歯だった:先天的

一般的に出っ歯といわれる噛み合わせの状態は、専門用語では「上顎前突」と呼ばれています。
上下の歯列弓の前後的位置関係(上下顎第一大臼歯の前後的位置関係)から歯列の状態を分類した「Angleの不正咬合の分類」では次のように分類されます。

  • Ⅰ級:上下顎歯列弓が標準的な前後的関係にある

  • Ⅱ級:上顎前突(下顎第一大臼歯に対し上顎第一大臼歯が半咬頭以上前方にある)

  • Ⅲ級:下顎前突(下顎第一大臼歯に対し上顎第一大臼歯が半咬頭以上後方にある)

Angleの不正咬合の分類の写真
Angleの不正咬合の分類

鏡で第一大臼歯(6歳臼歯)の位置関係を確認してみて下さい。第一大臼歯の頬側にはとんがった山が3つあります。この山を「咬頭」といいます。上の第一大臼歯の一番手前の山が、下の治一大臼歯の手前と次の山の間(この間にある溝を中央溝といいます)にあれば「1級」といいます。上の第一大臼歯の手前の山が下の第一大臼歯の中央溝より前にあれば「2級」、後ろにあれば「3級」ということになります。

上顎前突、下顎前突は骨格に遺伝的要因が強く出るといわれています。小学生頃からその傾向がみられてきませんでしたか?歯の位置関係から分類はしていますが、実際には顎骨の影響も無視することはできません。

上顎前突の患者さんの中には「人前でスパゲティは食べたくない……。上手く噛みきれないので口の周りが汚れてしまう」という悩みをお持ちの方もいます。しかし残念ながら顎骨の成長であるとなると、歯科矯正で歯の位置関係だけを並べ変えるだけでⅠ級の状態にすることは難しいこともあります。「治療の必要性があるのかどうか?」、「噛み合せは大丈夫なのか?」ということをきちんと判断し、上手に付き合う方法を考えましょう。

昔は前歯が空いてなかった:後天的

お蕎麦を食べて、自分の横顔を見て「前歯で噛み切れない。何か顎が小さくなってなったような気がする……」このような言葉を聞くことがあります。長きにわたって定期的に患者さんとお会いしていると確かに、「お顔の感じが変わったな」と共感してしまうことがありました。

ある著名人が70歳で新書本を出されました。本の帯には著者の写真が載っていたのですが、20代の頃の写真と比較してみると、下顎が以前よりもはるかに小さくなり、昔と比べて顎が後ろに引っ込んで「鳥」みたいな容貌に見えるのです。なぜそのようなことが起こったのでしょうか?ただ歳をとったからなのでしょうか?

原因は2つ考えられます。

  • 顎の関節の中の状態が変化したため、顎の位置が元の状態と変わってしまったこと。(耳の穴の1cmくらい前にあります。そこら辺を抑えて顎を動かしてみてください。ぐるぐると動くのが触れられるはずです)
  • 関節を構成している骨が部分的に崩れたことによって下顎の位置が変わったこと
顎関節の位置を示した写真
写真緑色の部分が顎関節にあたる

当院でもそのような変化に対してあまり意識をしていなかったのですが、このケースは必ずと言っていいほど、一番奥の歯にいろいろな問題が起きてきます。「なぜ徹底的にむし歯予防や歯周病予防をしていても奧歯がだめになっていくのだろう?」ということを長年追及してきました。そしてMark A Piper,M.D.,D.M.D.によってメカニズムが解明されたのです。彼の講義を院長が受けて、確実な治療指針を確立することができるようになりました。詳しくは是非、当院ホームページをご覧下さい。

どちらにしても治療は必要?

「よい噛み合わせとは、全ての歯が均等に当たっていること。」

この観点から考えると前歯があたらないということは噛み合わせが悪いということになります。前歯の役割は前方運動、側方運動時に奥歯が接触しないようにガイドをすること。なぜなら歯は横揺れの力に対して弱点を持っているからです。特に奥歯は前歯より力がかかるので、縦の力だけ当たって横の力は当たらないようにしたいのです。しかし前歯の接触がないということは前歯のガイドがないので、奥歯は縦の力だけではなく横の力によっても痛めつけられます。

奥歯しか当たっていないため、なんでもバリバリ噛めるのですが、時間の経過とともに、噛む力によって歯が欠けたり、奥歯を支えている歯槽骨が急激に吸収されたりして、歯を抜かざるをえない状態に追いやっていきます。多くの方が奥歯から義歯を作られているのは、このためです。

大切なのは咬合を操る顎関節を診断し、全体のバランスをどのようにとるかを検討することです。そのままでも大丈夫なのか?前歯に充填して前歯のガイドを作るのか?それとも前歯を厚みのある補綴物で補ってでも前歯のガイドが必要な状態なのか?きっと詳しい検査をすることで、あなたの大切な歯を守っていく手立てが生まれてくるはずです。詳しい検査に関しては当院ホームページ口腔ドックをご参考ください。

矯正だけでは解決しないかも

前歯が出ていて気になる方は、単なる歯の矯正では解決しない場合があります。またお蕎麦が前歯で噛み切れなくなってしまった方は、顎が後退したことによって起こった可能性が強いので、まず顎関節の検査をして顎の状態やかみ合わせの状態をMRIやCTでよく調べてください。そして最終目標を定めた治療計画をしっかりと立ててもらい、あとは努力と実行あるのみです!不安が解消され、安心感が生まれ自信がつくことでしょう。鏡を見てネガティブになっているだけでは何も変わりません。

計画の重要点は何度も申し上げますが、顎関節と咬合です。前歯が噛み合わない分、奥歯への負担が大きくなっている可能性があります。

「よい噛み合わせの条件は全ての歯が均等にあたっていること。」

ここへ近づけるためにはどのようにバランスをとったらよいのか?顎関節のMRI撮影から詳しい検査を行い、専門家に診断、治療計画を立ててもらいましょう。

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